声優の金田朋子が結婚した時、ネットの声優オタクたちは概ね祝福した。
金田朋子は40代であり、炎上対象の年齢からかけ離れていたからである。
同時に金田朋子の相方(公式ではなくネット界隈が勝手に認定した非公式なもの)の、
とある声優の結婚がいつなのか?というネタがネットで俄かに騒がしくなっている。
彼女の名前は、「松来未祐」。金田朋子とは4歳ほど年下であり、
所属事務所も異なる松来未祐が何故注目されるのかを語る前に、
松来未祐が金田朋子の相方と言われる所以を少し触れておく。
金田朋子というタレントを少しでも見たことがあるなら、
松来未祐のエキセントリックさを良くご存じの事と思う。
松来未祐は40歳でありながら地声が幼児並みの高音である事に加え、
暴走一歩手前のイロモノキャラとして声優業界に君臨している。
その特異なキャラ設定が故に「絡みづらい声優」として有名なのである。
そしてそんな松来未祐とまともに絡んで番組を進行できる数少ない人物の一人が、
「松来未祐」という声優なのである。キャラの立ち位置的には、
40歳の金田朋子が幼児並みの傍若無人ぶりを発揮し、
それを36歳の松来未祐が母親のように捌いて進行する。こんな具合だ。
声優というものは2.5次元の職業と言われ、
現実でもある程度キャラを作っている者たちが多い。
そうした方が固定客がついて売れるからである。
金田朋子や松来未祐も、これらが素の彼女たちでは恐らくない。
だがしかし、声優に金を落とすオタクたちは、現実と非現実の区別を設けず、
声優たちのキャラをネタにして面白がっているのである。
ところが、そんなオタクたちの逆鱗に触れるイベントがある。
それが声優たちの結婚である。結婚によってオタクたちは現実を突きつけられるからである。
言わばいい夢を見ている最中に叩き起こされるものである。この怒りは凄まじく、
ネットが炎上するだけならまだマシな方で、
悪質な場合はその声優に直接危害が及ぶ場合だってあるのだから恐ろしい。
ただし逆鱗に触れない結婚もある。それは声優の年齢が30歳を超えている場合である。
男のオタクたちが女性声優を崇める行為は、言うなれば古代の巫女崇拝と同じである。
金田朋子や松来未祐に不必要に処女性と未成熟さを押し付けているのが良い例である。
そしてそれらは加齢と共に失われ、30超えでオタクたちは一斉に現代の巫女から離れていくのである。
つまり「女」になった声優に用はないのである。
話を金田朋子と松来未祐に戻すと、
金田朋子や松来未祐二人はネットでは「結婚が難しいとされる女性声優」として有名だった。
奇声奇行が多い金田朋子は言わずもがな、とりわけ松来未祐は、
器量もそこそこで家庭的というキャラ設定があったため、
何故結婚出来合いのか不思議に思う人が集い、いつしか『松来未祐=結婚できない女声優の象徴』が構築されたのである。
実は2011年の震災以降、女性声優の結婚報告が相次ぐようになった。
象徴的なのは、有名声優の「山寺宏一」の再婚相手となった「田中理恵」であろう。
この結婚はワイドショーや週刊誌で声優業界では珍しく大きく取り上げられた。
そしてその後堰を切ったように、女性声優の結婚ラッシュが始まったのである。
特に2013年は16名もの女性声優が結婚・婚約発表をしているのだ。
この事態にオタクたちは激高しているのかと言えば、そうではない。
発表者たちが皆30オーバーなので、呑気にもネタにして遊んでいるのである。
そしてそのネタにされているのが、未婚の象徴である松来未祐なのである。
女性声優の誰かが結婚発表するたびに松来未祐はネタにされ、
たまに検索ワードにランクしたりする。一番結婚しそうにない金田朋子が結婚した今、
オタクたちは怖いもの見たさで松来未祐の結婚=Xデーを心持にしているのである。
こうしてネタにされる松来未祐の胸中は知る由もないが、女性声優にとって結婚報告は、
一種の禊なのかもしれない。実は巫女として崇拝されている女性声優の中には結婚している者たちもいる。
だがしかし彼女たちはそれを表立たせることはない。
デメリットしかないからだ。女性声優が結婚報告をする時は、
自身が巫女としての役目を終える自覚行為に他ならない。
オタクたちの大多数はこのことを承知している。だから金田朋子や松来未祐を他人事として祝福できるのである。
松来未祐も30オーバーなので祝福されるだろう。しかしこれは女性の幸せを単に祝うのではない。
巫女からの卒業を兼ねているのである。